ある年の、夏の始まりのころだったと思います。
店の裏口の倉庫の下に何かうずくまっているではありませんか!よれよれのこげ茶色っぽいそれは少しお尻あたりがが見えるだけ、「きっと狸だわ!」「そういやぁこないだ直ぐそこの道端を毛が半分抜けた年老いた狸がよろよろと歩いていたぞ。」「あっうんうん、見た見た!」「ありゃぁそうとう餓えとるな..」病気を持ってるかもしれないから係わっちゃダメよと言う私に主人はウンウンとうなずいたはずでした。
ところうが、それから時々小汚い「狸」は後姿だけチラリチラリと見せるようになっていったのです。
最初は魚のアラの細かいのを少しだけ、ちょっと大きい塊だと残してありました。仕方ないので湯でこぼしたのほぐしてやりました。欠けた器に入れて倉庫の縁の下に押し込んでやると当方の姿が見えなくなるのを確認してから少しずつ食べていました。
しばらくすると尻尾がはっきり見えました。
えぇ、狸にしてはまっすぐで長くて細いよ。病気で毛が抜けちゃったのかも..まだ、主人と私は狸だと思い込んでいたので、「たぬき」とか「たぬたぬ」とか呼んでいました。そのうち、毎日やってきて、少しずつ魚のアラを食べていくようになりました。それでも、用心深くてじっと縁の下にかくれて顔を見せることはありませんでした。