ききょうとすみれと私が暮らしたのは、ただほんの数年間でした。時間の流れは過ぎてみるとなぜか不思議なものです。つい先日の事だったようで、でも、ずうっと前の事のようでもあり、そして、実にもう既にふたむかしも前のことなのです。
すみれにとっては、母との暮らしのほうがはるかに長い月日でした。囚われの身だった私との暮らしとは違い、土を踏み野を自由に駆けて文字通り「猫」だったのです。
病気をしたり、怪我をしたり、そのたびに母の世話になりました。なんだかんだと言っても母はすみれをとてもかわいがっていましたし、すみれも十分にわかっていたからこそ、私がたまに顔を出しても知らんぷりを決め込んで母に義理立てしていたのかもしれません。
昨年、秋の彼岸のことでした。久しく訪れていなかった実家へ立ち寄る機会ができました。
- こんにちはぁ! -
すると、すみれが玄関でちゃんと猫すわりをして小さく
「びぃゃあ...」
とお出迎えをしたのです。
- すみれぇ、久しぶりね。元気そうじゃない、お出迎えしてくれるのぉ?ありがと! ー
そして、私の後をついてきて居間へ座る隣に、ごろんと横になるかならぬかの内に喉を鳴らし始めました。
「最近、すみれ、食が細くなったのよ...私の後をよろよろとついて歩いたり、すぐ隣の部屋にいるのに『びゃあびゃあ』と鳴いて私を探し回って呼ぶのよ。外にはほとんど出なくなったしねぇ...」
と母が言いました。
- そう.. -
私は、すみれを優しくなでていました。すみれはゴロゴロ、ゴロゴロと喉を鳴らし続けました。