木曽の短い夏が通り過ぎ、里山はすっかり秋の気配となりました。
私は体調を崩し、1週間ほど休暇を取って実家へ帰ってきました。
すみれはすっかり母にも実家の暮らしにも慣れ、ストラップなしでご近所を自由に出歩くようになっていました。私が呼んでも、素知らぬ顔で「あんた、だれ?何しに来たの?」といわんばかりにちろりと見ただけでした。
- ごめん、すみれ!ほったらかしにして..寂しかったでしょ。-
私が、ひょいっと抱き上げると「びぃゃ!」と小さく鳴きました。
- ききょう、どうしているかなぁ?今頃、何処にいるかしら?誰かにかわいがってもらっているかしら?...
「... あのね、きみこ。」
「...ききょう、見つかったのよ。」
母が、ぽつりぽつりと話し始めました。
「春になってから聞いたんだけど.. 冬の終わりごろ、一度だけたくさん雪の降り積もった日があったでしょ。次の日の朝、向こう隣のNさんとこの納屋の稲わらの上で眠るようになくなっていたって。」
私は、ボロボロッと涙がこぼれました。
「Nさんはその猫の姿を以前からよく見かけていたそうよ。でも、きみこが猫を探していることはご存じなかったみたい.. 朱い首輪の虎縞、人懐っこい大きな猫だったって。マルマル太ってやせてはいなっかった... たぶん自分で餌をとったり、どこかでおよばれしてたんじゃないかな.. 大事に葬って下さったそうよ。」
- そうか..、ききょう近くにいたんだね。名古屋ではずっと、ずっと自由を奪って束縛していたから、こちらへ来て猫らしく奔放に過ごしたんだわ。ごめんね、ききょう!-
- ごめんね、ききょう!! -
私は悲しくてききょうの名を心の中で呼び続けましたが、だんだんと、そして、月日が経つうちに「ききょうは猫として生きたのだから..」と思えるようになっていきました。