すみれ、実家の猫になる。

 すみれはだんだんと実家での日々に慣れていきました。外出は相変わらずストラップ付でしたが、門から外の道へまるで犬のように母に連れられて日に何度も暖かい時間を見計らって散歩に出るようになりました。

 母は、私のききょうを探し回る様子が余程こたえたのでしょう。それに母も決して猫が嫌いなわけではありませんでしたから、忙しい私に代わってずいぶんすみれを甘やかしていました。

 

 年が明け、比較的穏やかな冬が過ぎていきました。梅の花がほころび木曽の遅い春の気配を感じ始める頃、私はすみれを実家に残し社宅へと移り住みました。そして、季節の移ろいは勿論、幾日過ぎたのかも分からぬほどの時の激流の中に身を置いたのでした。

 

 木曽の短い夏が通り過ぎようとしていました。